原子力           元素

原子核反応を人為的に制御し、その反応から得られるエネルギー。人類にとって、水力、火力に次ぐ第三のエネルギー源。まず原子爆弾、次いで原子力潜水艦に応用、そのあと原子力発電が始まった。また原子力発電以上に期待された利用法は原子力船だったが、まだ実用化されていない。旧ソ連だけは砕氷船を実用化したが、アメリカ、旧西ドイツ、日本も実験船を一隻建造しただけである。原子炉で生産される放射性同位元素は活発に利用されている。放射線による品種改良、殺菌、殺虫、発芽防止、がんなどの診断、治療、エンジンや鉄板などの非破壊検査、トレーサーによる生物の代謝機能検査、医学研究、地質学的年代測定、アイソトープ電池などあらゆる分野に広く応用され、欠かせない存在となった。

原子核反応
原子核の変化をともなう反応。軽い核同士のくっつく核融合と、重い核が分裂する核分裂とがエネルギー生産に利用されている。核反応によって吸収または開放されるエネルギーは、同じ質量の燃料に対し、化学反応のエネルギーの約100万倍で、原子核エネルギーといい、原子力の源である。

臨界
炉心に核燃料を入れ、制御棒を引き抜いていくと核分裂反応が生じ、熱を発生するようになる。これは連鎖反応が起こり始めたためで、このように核分裂が持続的に進み始める境目を臨界という。この状態に達すると「臨界に達した」という。新聞的表現では「原子の火が点った」となる。

中性子(ニュートロン)
原子核を構成している粒子の一つ。陽子がプラスの電気をもっているのに対し、中性子は電気的に中性であるため、小さなエネルギーで原子核に近づける。核反応を起こしやすく、特に核分裂は中性子によって起こる。原子炉内でエネルギーを発生させる主役。

高速中性子
低エネルギー核物理学の範囲でのエネルギーの大きい中性子。核分裂で生まれたばかりの中性子は、数百万ボルトのエネルギーをもち、高速中性子といわれ、透過力が強い。エネルギーが大きいので速度も大で、秒速約300キロメートルくらい。高速中性子を利用するのが高速増殖炉である。

熱中性子
遅い中性子。速度は高速中性子より小さく、平均秒速2.2キロメートルで音速の七倍。遅い中性子は核につかまりやすいので、核分裂や核反応を起こす確率が非常に大きい。高速中性子を減速剤の中で衝突を繰り返して、しだいに速度を減じたのが熱中性子。軽水型原子炉の主役である。

原子炉
ウラン、プルトニウム、トリウムなどの核分裂性物質を燃料とし、この核分裂連鎖反応を制御しながらエネルギーを取り出したり強い中性子の源を作る装置をいう。原子炉内で利用される中性子によって分類すると、高速、中速、熱中性子原子炉となるが、現在ほとんどが熱中性子原子炉である。この熱中性子原子炉は、核燃料、中性子を減速して熱中性子とする減速材、発生した熱エネルギーを取り出す冷却材、中性子を吸収し連鎖反応を適当に制御し、炉の出力を調節する制御棒などで成っている。高速炉は減速材がいらない。

動力炉
核分裂エネルギーの熱を動力に変え、発電、船、航空機等のエンジンに利用する原子炉の総称。

軽水炉
世界の原子力発電所の大半がこの型式。まずアメリカで潜水艦用の動力炉として開発され、のち陸上発電所用に転用され、大型化された。沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の二形式がある。ともに普通の水、軽水を冷却、減速材に使う。PWRは潜水艦用をそのまま大型化したもの。炉内は加圧され、水が沸騰しない。この高温水を使って蒸気発生器で蒸気を作り、タービンを回して発電する。BWRは炉内で冷却水を沸騰させ、その蒸気で直接タービンを回して発電するので、蒸気発生器がいらない。その分だけ熱損失も少ない。タービンを回す蒸気は、一次冷却水そのもので放射能を含むので、放射線管理が複雑になる。軽水炉は重水炉に比べて小さくてすむが2~3%の濃縮ウランが必要。

加圧水型炉(PWR)
炉心を収めた圧力容器内を加圧器によって157気圧に高めて、冷却水が沸騰しないようにした発電炉。一次冷却水は炉心で320度になり、蒸気発生器で二次冷却水に熱を伝え、冷却材ポンプで圧力容器内に戻される。二次冷却水は水蒸気になって発電タービンを回し、復水器で冷やされて水になり、再び蒸気発生器に送られる。復水器を冷やすのは日本では海水、欧米では湖水か河川水。100万キロワット級の原子炉では、毎時約5トンの一次冷却水が炉心を通る。燃料棒に小さな穴が開いたりすると核分裂生成物で汚染されるし、燃料棒破損がなくても、水中の不純物が放射能を帯びることがある。二次冷却水は、蒸気発生器に損傷がない限り放射能を持つことはない。蒸気発生器は標準的な炉では4台が格納容器内にあり、内部に一次冷却水が通る逆U字形の伝熱細管が約3400本ある。腐食でひび割れが起きやすい。穴が開いた細管は栓をして使わなくするが、これが多数になると、蒸気発生器を交換する。関西、四国、九州、北海道の各電力会社が採用。

改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)
東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)6号 、7号機に初めて採用される新鋭炉。日立製作所と東芝、ゼネラル・エレクトリック(GE)が共同開発。安全性と経済性で従来型より優れている。いわゆる”安全炉”と呼ばれる新型炉の一つ。アメリカに一歩先んじて日本が採用した。改良点は、従来は原子炉圧力容器の外に設置されていた再循環ポンプを容器の内側に取り付けた。この結果、圧力容器を取り囲んでいた太い配管が必要でなくなり、パイプの破断による冷却材喪失事故などの危険性が低くなった。炉内の水量も一目でわかる。東京、東北、中部、中国、北陸の各電力会社が採用している。

増殖炉
燃やした以上のプルトニウムを炉の中で生産する。高速中性子によってプルトニウム239をつくるものが高速増殖炉(FBR)。ウラン資源の利用率が数十倍になる。わが国では、動力炉・核燃料開発事業団(後の核燃料サイクル開発機構)が自主開発した初の実験炉「常陽」(熱出力5万キロワット)が茨城県大洗町に完成。次の段階の原型炉が「もんじゅ」(94年福井県敦賀市)。

減速材
中性子は原子核反応に重要な役割を果たすが、速度の速い中性子は原子核にとらえられにくく、原子核反応にとって、効率的ではない。そこで中性子のスピードを落とすために軽い元素の原子核と衝突させることが必要となる。このために使われる物質としては、黒鉛、重水、軽水などが適している。減速材として必要な性質は中性子を吸収しないことであり、この点だけに限定すれば、重水、黒鉛、軽水の順になる。軽水炉とか重水炉とかの呼び名は、使用する減水材の種類で付けている。

冷却材
原子炉の中で核分裂反応により生じた熱を取り出す材料。原子力発電の場合はこの熱をタービンや熱交換器に運ぶ役割をする。重水、軽水がもっとも普通である。このほか金属ナトリウムが溶けて液状になったものや、空気、炭酸ガス、ヘリウムなど気体の形のものがある。気体冷却材は安全性は高いが、能率が落ちる。水、気体の場合は加圧して使うのが普通である。

制御棒
連鎖反応をうまく制御するには原子炉内で発生する中性子の量を調整する必要がある。この調整をするのが制御棒である。カドミウムやボロンなど中性子をよく吸収するものを含む材料で作る。旧ソ連チェルノブイリ原発事故は、制御棒をたくさん引き抜きすぎたので暴走した。あわてて挿入しようとしたが時間がかかり、反応を制御し損じた。日本の炉は瞬時に入る。

一次冷却水
軽水炉の場合、原子炉中の燃料棒から熱を取り出すのに、水を炉心に循環させている。これを一次冷却水という。加圧水型炉で発電タービンを回すのは、熱交換器を通じて一次冷却水の熱をもらって沸騰した、別の二次的な循環系のなかの水蒸気(二次冷却水)である。一次冷却水は、直接炉心の燃料棒に触れるため、炉容器、パイプ、燃料被覆などから溶け出た鉄、マンガン、コバルトなどを含み、放射能を帯びている。冷却水中の酸素量を減らすなどの工夫で、最近は、冷却水の汚れが減り、このため定期検査の際の従業員の被ばく量も減った。

重水
重水素と酸素が化合した水。比重1.1、氷点3.8度、沸点101.4度。普通の水1リットル中に、約0.14グラム含まれる。原子炉の減速材および水爆や核融合炉の燃料として使われる。隔膜を使って海水から製塩をするのと同じ方法で水中の重水を濃縮して作る。

軽水
普通の水のこと。原子炉の用語としては、重水に対比させてこう呼んでいる。発電炉に広く使われる軽水炉では、軽水が中性子を減速して連鎖反応を促進し、熱除去の冷却剤の役をする。水が失われると連鎖反応は止まるが、熱は除去されないのでたまり、炉心の温度が上がりすぎると炉心溶融につながる。炉内に水があれば安全。

炉心溶融
原子炉の温度が上昇しすぎると、燃料が溶融する。

炉心
原子炉の中央にあって、燃料が集まって核分裂し、熱を発生させる部分。軽水炉は、燃料棒を束ねた燃料集合体が支持枠の中にきちんと並べてありその合間を制御棒が出入りする。炉心で発生した熱は燃料棒の間を流れる冷却水によって運び出される。炉心部はステンレス内張りの鋼鉄製圧力容器の中に収まっている。

プルトニウム海上輸送
1992(平成4)年秋の、フランスから日本へのプルトニウムの海上輸送。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の燃料に必要な約1トンを、再処理委託先のフランスから日本に約40日かけて運んだ。当初空輸の予定だったがアメリカの反対で海上輸送になった。以前の海上輸送の警戒にはアメリカが当たっていたが、今回から日本政府の責任で実施することになった。このため海上保安庁がプルトニウム運搬船を護衛するための巡視船を特注で建造した。この輸送については、濃縮ウランを提供したアメリカの了解が必要。輸送中は衛星を利用して監視する。

兵器用プルトニウム
兵器用プルトニウムは、発電炉の約10分の1くらいの燃焼度の燃料を再処理して抽出する。プルトニウム239の含有量は93.5%、同240は6%、同241は0.5%、発電炉の使用済み燃料から回収したものはそれぞれ58%、24%、11.5%。

ウラン
銀白色の重金属、比重18.8。原子番号は92。自然の状態ではウランは、主として238と235の二種類の同位元素の混合体である。ウラン235は純粋のウラン金属の中に0.7%の微量の割合で含有されている。残りの99.3%はウラン238である。ウラン235は核分裂反応によって同じ目方の石炭の300万倍の熱を出す。ウラニウムの呼び名はドイツ語式にウランに統一された。

使用済み核燃料
原子力発電所から運び出された燃えかすの核燃料のこと。原子炉の中で3~4年燃やしたあと取り出す。使用前のウラン235濃度は2~3%だが、燃えかすにもまだ1%程度残っている。また、1トン当たり6~7キログラムのプルトニウム239も含まれている。この燃え残りのウラン235と副生したプルトニウム239を抽出し、核のごみと分離する作業が再処理である。再処理工場は動燃事業団の東海再処理工場(処理能力年間210トン)のほか、青森県六ヶ所村に日本原燃が年間800トン処理の工場を建設。約100万キロワット級の原子炉からは、年間約30トン(ウラン重量)が出る。毎年の発生量は約1000トン。放射能が非常に高い。電気事業連合会の調べでは、2005年3月末で全国の原発敷地内には約1万1210トン(ウラン重量)の使用済み核燃料が貯蔵されている。全原発の総貯蔵容量は約1万7540トンで、容量の小さな原発では限界に近づきつつある。電力会社は発電所内で20~30年間貯蔵する方針を打ち出した。

低レベル放射性廃棄物
原子力発電所などから出る放射能の弱い放射性廃棄物。気体、液体、固体の三種類がある。通常話題になるのは、放射能を帯びた気体から放射能を取り除くためのフィルターや原子炉内の放射能を吸着したイオン交換樹脂、液体廃棄物を処理したあとの残りカス、掃除に使った紙くず、布きれ、ビニールシート、それらを焼却したあとの灰など。こてをコンクリートやアスファルトに混ぜてドラム缶に詰めている。発電所内に雨天体育館のような置き場を設けて保管しているが、量が多いので、電力会社などが出資してつくった日本原燃が電力会社から廃棄物を集め、青森県六ヶ所村に1992(平成4)年度から集中処分している。

燃料棒
ウラン燃料を被覆管で包んだ棒状の核燃料。原子力発電所では、燃料棒を50~230本ほど束ねた燃料集合体として出し入れする。軽水型発電炉の場合、一般に燃料は低濃縮二酸化ウランの錠剤がジルカロイ(ジルコニウムの中に少量の錫、鉄、ニッケル、クロームなどを加えた合金。中性子の吸収が少なく、連鎖反応を邪魔しないので燃料のさやや冷却管などに利用される)被覆の鉛筆のように細い約3メートル金属製さやの中に入っている。中部電力浜岡発電所の1号機(BWR)では、燃料集合体1本の重さは約310キログラム、長さ4.46メートル、直径13.8センチメートル。濃縮度は2.2~2.8%で、一般には約3万メガワット日/トン燃えたところで取り替える。

濃縮ウラン
天然には全体の0.7%しか含有されていないウラン235の割合を増し、含有率を0.7%以上にしたウラン。普通、20%までを低濃縮ウラン、90%以上を高濃縮ウランという。原爆は99.9999%まで濃縮したものを用いる。しかし厳密には何%と決まりがあるわけではない。天然ウランから濃縮ウランを作る方法にはガス拡散法、ガス遠心分離法、レーザー法、化学分離法がある。実用化されているのはガス拡散法とガス遠心分離法だがアメリカは将来レーザー法を採用することに決めた。軽水型発電炉は2~3%の濃縮ウランを使う。

超ウラン元素
ウランが原子炉の中で中性子を吸収してできる人工の元素。加速器内で適当な二つの元素を衝突させて合成することもできる。プルトニウム(原子番号94)、アメリシウム(同95)などがある。現在ローレンシウム(同103)までが確認されている。超ウラン元素は不安定で、放射線を出しながら、より軽い元素に変わっていく。半減期が極めて長い。アクチノイドのこと。

プルトニウム239
プルトニウム(原子番号94)同位元素の一つで、非核分裂性元素であるウラン238に中性子を吸収させて、人工的に作る超ウラン元素。天然にはほとんど存在しない。プルトニウムの主な同位元素は、239、240、241、242で、核分裂するのは奇数番号のみ。炉の燃料になる。核兵器の原料にもなる。

混合酸化物燃料(MOX)
天然ウランや、再処理で回収したウラン(劣化ウラン)に、使用済み核燃料を再処理して取り出した酸化プルトニウムを添加すると、このプルトニウムが濃縮ウランと同じ働きをして核分裂を起こして燃える。この添加混合酸化物がプルサーマルの燃料で、これをMOXと呼ぶ。高速増殖炉の燃料もMOXである。日本原燃は青森県六ヶ所村に生産量年間130トンのMOX工場の建設を予定。

プルサーマル
軽水炉の使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムを再び軽水炉で燃やすこと。「プル」はプルトニウムの略。軽水炉は核分裂で生じた高速の中性子を減速して熱(サーマル)運動と同程度の速度にしているので、プルサーマルという。

核燃料再処理工場
原子力発電の核燃料の”燃えカス”を処理して、その中に残っているウランや、新しくできたプルトニウムを取り出し、新しい核燃料を作り直す工場。日本では茨城県東海村に初めて、動力炉・核燃料開発事業団(後の核燃料サイクル開発機構)が試験工場を1974(昭和49)年10月完成させた。全国各地の原子力発電所から集められた使用済み燃料は強い放射能を持っているので、水タンクに沈めて三、四ヶ月おき、放射能の減衰を待つ。そのあと分離精製工場でステンレスなどの覆いを除き、硝酸を加えて燃料を溶かす。そして化学薬品でウランとプルトニウムを分けて抽出、精製する。強い放射性の固体、液体、気体の廃棄物が出る。日本原燃の六ヶ所再処理工場(青森県)は93年4月着工、2000年過ぎ操業開始。100万キロワット級原発30基が1年間に出す使用済み核燃料を処理できる。総工費1兆円。大量のプルトニウムを生産して需要があるか懸念され、国際的に関心を呼んだ。需要がないと外国に核拡散を心配させる。

高レベル放射性廃棄物
使用済み燃料の再処理で生じるのが高レベル放射性廃液。廃液の量は少ないが放射能が強いので、廃液は一定期間放射能を減衰させ、発熱を冷却させたのち、ガラスなどと混合溶融して固化体にする。さらに一定期間冷却の後、貯蔵施設に30年以上貯蔵後地層中に隔離処分する。使用済み燃料1トンから約100リットルのガラス固化体1本、100万キロワットの原発1基を1年間運転すると、約30本出る。地層処分を実施する組織として、2000年10月に原子力発電環境整備機構が発足した。約25年かけて最終処分地を選び、その後10年ほどで処分を始める。処分後も300年間は管理する予定。候補地の北海道幌延町は北海道議会が反対した。英仏に委託した再処理で生じた高レベル放射性廃棄物が1995(平成7)年から十数年かけて日本に返還され、青森県六ヶ所村に一時保管される。第一回目の輸送は95年4月に日本に着いた。日本側は輸送ルートの公開を求めたが、輸送に責任をもつ英仏は妨害を危ぶんで拒否した。輸送ルートの沿岸国は安全への懸念や警戒を表明した。専門家によれば、たとえ水没して容器が壊れても、海中生物を通じて人体に及ぶ影響は自然放射線の1000分の1以下という。

放射能
不安定な原子核は電子(ベータ線)、ヘリウム原子核(アルファ粒子)などの粒子線を出して他の元素に変化したり、エックス線よりも波長の短い電磁波(ガンマ線)などを絶えず出して、安定な元素になろうとする。このように放射線を出す性質を、放射能という。1896年、フランスのベクレルがウランから出る不思議な放射を発見、キュリー夫人がこれを放射能と名付けた。放射能の研究から原子核物理学がはじまった。放射能の強さの単位は、ベクレル(キュリー)、物質または人間が吸収する放射線量の単位は、クーロン毎キログラム(レントゲン)。放射能から出るのが放射線である。

半減期
放射性物質は、いろいろな放射線を出して、他の物質に変化していくが、その変化の率は一つの放射能につき一定の値をもっている。したがって、一定量の放射性原子核が初めの数のちょうど半分になるまでに要する時間もその物質に固有の値をもつ。この時間を、半減期という。500万分の1秒というような短いものから、1000兆年の200倍という天文学的数字の長寿命のものまで、核種によりさまざまである。放射性物質の減り方を時間に対して示す曲線を減衰曲線という。成分のわからない微量の放射性物質の混合物があるとき、その放射能を時間に対して測定すると、既知の減衰曲線と比較し、成分物質の種類を正確に分析できる。

ヨウ素131
大気中の核実験や原子炉事故があると、放射性のヨウ素131が放出される。それが牛乳や野菜を通して人に摂取され、主に甲状腺に沈着して甲状腺がんの引き金になる。原子炉内の核分裂物質中最も量が多く、気体のため大気中に拡散しやすい。放射能の半減期は8日で短期間に消滅。自然界には存在しないので核実験や原発からの放射能漏れの指標になる。

セシウム137
セシウムは原子番号55の銀白色の金属元素。融点が摂氏28.5度なので、夏には溶けて、水銀のような外観をもつ。天然にあるものはセシウム133で、セシウム137はウランの核分裂から生まれる。放射性でガンマ線とベータ線を出し、半減期は30年である。ヨード131と共に原発事故時に飛散しやすい。過去の大気圏内核実験で日常の食物にも微量ではあるが含まれている。体内では代謝による排せつで蓄積性は減る。70~80日で半減。

日米原子力協力協定
アメリカが日本の原子力平和利用に協力するとともに、軍事利用を防止する目的で作られた。協力の範囲、協力の条件、保障措置などを規定。最初の協定は、1958(昭和33)年12月発効、66年2月に改訂。また74年5月のインドの核爆発実験をきっかけに成立した78年アメリカ核不拡散法により、アメリカが要求する規制強化を受け入れて新協定を結んだ(88年5月発効)。この新協定で30年間、日本のプルトニウム利用をアメリカが認めた。

原子力損害賠償法
事故に伴う損害賠償についての法律で、アメリカではプライス・アンダーソン法と呼ばれる。この法の特徴は無過失責任である。事故の賠償のため原子力事業者が保険会社から受け取る保険金は、最高8400億円。わが国では最高300億円。それ以上は、事業者が青天井で補償の支払をする。支払能力がないときは救済を政府が援助する。日本は無限責任だがヨーロッパでは補償総額480億~500億円の有限責任。また巨大な原子力事故が発生した場合、ヨーロッパのように多くの国が国境を接している地域ではその損害が国境を越えて及ぶことが予測され、賠償に関する国際的取り決めがある。

ベクレル(Bq)
SIの放射能の単位。固有の名称を持つ組立単位で、フランスの物理学者名にちなむ。放射能は物質が自発的に放出する放射線の単位時間当たりの数で表され、ベクレルは毎秒の数。ベクレル単位で表される量は、核種の壊変の活性度であり、放射線のエネルギーや危険度とは比例しない。

シーベルト(Sv)
放射線の生物学的効果の尺度である線量当量を表すSI組立単位。線量当量は、放射線の人体に対する危険の程度を示す場合などに用いられ、吸収線量と同じ次元(ジュール毎キログラム)を持ち、吸収エネルギーに放射線の種類や分布の影響を取り除く修正係数を乗じたもの。この修正を行った数値を示す時に単位シーベルトを用いる。1989年に日本の法令にも採用された。放射線防護の分野で使う線量単位のレム(rem)は、1rem=0.01Svの式でSvと関係付けられる。


 原子番号  元素名   元素記号  密度g/cm3    融点℃    沸点℃

1
水素
H
0.09g/L
-257
-253
無色無臭の気体ですべての物質のうち最も軽い
2
ヘリウム
He
(-272)
-269
希ガス  空気中に体積で5×10 ー4%ふくまれる
3
リチウム
Li
0.53
179
1317
アルカリ金属  銀白色で柔らかい  すべての金属の内で密度が最も小さい
4
ベリリウム
Be
1.86
1285
2780
アルカリ土金属  灰色の金属  硬度が大きく腐食にも強い
5
ホウ素
B
2000
2550
非金属元素  暗褐色の粉末  通常のものは無定形
6
炭素
C
非金属  純粋な結晶はダイヤモンド、グラファイトとして産出
7
窒素
N
-210
-196
非金属  無色無臭の気体  空気の成分として体積で約4/5をしめる
8
酸素
O
-229
-183
無色無臭の気体  自然界に最も多く存在する元素
9
フッ素
F
1.71g/L
-218
-188
非金属  淡黄色で刺激臭のある有毒の気体
10
ネオン
Ne
-249
-246
希ガス  空気中に体積で1.5×10 ー3%ふくまれる
11
ナトリウム
Na
0.97
98
878
アルカリ金属  銀色で柔らかく新しい切り口は光沢がある
12
マグネシウム
Mg
1.74
650
1107
アルカリ土金属  銀白色の軽金属
13
アルミニウム
Al
2.70
660
2270
銀白色の軽金属
14
ケイ素
Si
2.33
1414
2355
炭素族  暗褐色の粉末
15
リン
P
1.82
44
280
窒素族  黄リンと赤リン
16
イオウ
S
1.97
113
444
非金属固体
17
塩素
Cl
-102
-35
刺激臭のある黄緑色の気体  強い毒性がある
18
アルゴン
Ar
無色無臭の気体  空気中に体積で0.93%ふくまれる
19
カリウム
K
0.86
64
758
銀色の柔らかい金属
20
カルシウム
Ca
1.55
851
1487
銀白色の金属
21
スカンジウム
Sc
2.99
1539
2727
希土類  白色金属
22
チタン
Ti
4.50
1725
3260
光沢のある金属  耐熱性に富み機械的強度も強い
23
バナジウム
V
5.98
1700
3000
金属元素  銀白色
24
クロム
Cr
7.19
1900
2475
銀白色の硬い金属
25
マンガン
Mn
7.44
1244
2095
銀灰色の硬くてもろい金属
26
Fe
7.86
1535
2730
銀白色の光沢をもった金属  展性延性強い磁性をもつ
27
コバルト
Co
8.70
1490
2900
銀白色の金属  展性延性強い磁性をもつ
28
ニッケル
Ni
8.85
1455
3075
銀白色の強磁性をもつ金属  展性延性に富む
29
Cu
8.93
1083
2630
30
亜鉛
Zn
7.14
419
907
31
ガリウム
Ga
30
2070
32
ゲルマニウム
Ge
5.35
959
2700
33
ヒ素
As
(817)
616
34
セレン
Se
688
35
臭素
Br
3.19
-7
59
36
クリプトン
Kr
37
ルビジウム
Rb
1.52
39
696
38
ストロンチウム
Sr
2.60
800
1366
39
イットリウム
Y
4.34
1450
40
ジルコニウム
Zr
6.94
1860
2900
41
ニオブ
Nb
8.56
2467
2900
42
モリブデン
Mo
10.28
2620
4800
43
テクネチウム
Tc
11.50
2140
44
ルテニウム
Ru
12.30
2450
3700
45
ロジウム
Rh
12.41
1966
3960
46
パラジウム
Pd
12.03
1555
2200
47
Ag
10.50
961
1950
48
カドミウム
Cd
8.64
321
767
49
インジウム
In
7.29
155
1450
50
Sn
7.31
232
2362
51
アンチモン
Sb
6.58
631
1380
52
テルル
Te
6.24
450
1390
53
ヨウ素
I
114
185
54
キセノン
Xe
55
セシウム
Cs
1.91
28
670
56
バリウム
Ba
3.50
990
1537
57
ランタン
La
6.17
920
3469
58
セリウム
Ce
6.78
815
3468
59
プラセオジム
Pr
6.78
935
3127
60
ネオジム
Nd
7.00
1024
3027
61
プロメチウム
Pm
62
サマリウム
Sm
7.54
1072
1900
63
ユウロピウム
Eu
5.26
826
1439
64
ガドリニウム
Gd
7.95
65
テルビウム
Tb
8.28
1356
2800
66
ジスプロシウム
Dy
8.56
1407
2600
67
ホルミウム
Ho
8.80
1461
2600
68
エルビウム
Er
9.16
1250
69
ツリウム
Tm
9.33
1545
1727
70
イッテルビウム
Yb
7.01
1800
71
ルテチウム
Lu
9.84
1652
3327
72
ハフニウム
Hf
13.08
2207
3200
73
タンタル
Ta
16.64
2850
4100
74
タングステン
W
3387
75
レニウム
Re
21.30
3180
76
オスミウム
Os
22.70
2700
5300
77
イリジウム
Ir
21.45
2454
5300
78
プラチナ
Pt
21.40
1774
3804
79
Au
19.30
1063
2600
80
水銀
Hg
13.55
-39
357
81
タリウム
Tl
11.85
304
1457
82
Pb
11.34
327
1750
83
ビスマス
Bi
9.80
271
1560
84
ポロニウム
Po
9.32
254
962
85
アスタチン
At
86
ラドン
Rn
-62
-71
87
フランシウム
Fr
88
ラジウム
Ra
5~6
700
1140
89
アクチニウム
Ac
1050
90
トリウム
Th
11.50
1815
3000
91
プロトアクチニウム
Pa
15.37
92
ウラン
U
19.04
1132
3818
93
ネプツニウム
Np
17.6~
648
94
プルトニウム
Pu
19.80
640
3235
95
アメリシウム
Am
11.70
850
96
キュリウム
Cm
97
バークリウム
Bk
98
カリホルニウム
Cf
99
アインスタイニウム
Es
100
フェルミウム
Fm
101
メンデレビウム
Md
102
ノーベリウム
No
103
ローレンシウム
Lr